ハネノネ
その瞬間にハネがゆっくりと降ってきた。
この事実が、“ナキがハネを降らせている”という話を現実的にする。
呆然と立ち尽くすことしかできない僕に、姉は恐る恐る声を掛けてきた。
「ごめんなさい…聞いちゃいけない話だった…?」
わからなかった。
すでに面識のある姉に聞かれただけで、ナキがどうしてあんなに動揺してたのか。
ナキはやっぱりまだわからないことだらけだ。
「あんなに大きな羽根、初めて見た…。あの大きさじゃ一瞬で神経が…」
「え?」
姉は、ナキが異星人であることは聞いていないんだろうか。
姉が不思議そうな顔をして僕を見る。
「だってナキは、ハネの病でしょ?でも、生えてくる羽根は飛行用じゃないって判明してるはずなんだけど…」
どうやら一部始終を聞いていたわけではなさそうだ。
「姉ちゃんは、コウスケのところに行って。多分、もう暴れていない。」
「そういえば!ナキはコウスケに病の進行を遅らせる薬を打ったってどういう…」
「それは俺が聞いてくるから、姉ちゃんはコウスケの背中にその傷がないか見てみて。薬開発の手掛かりになるかも。」
それだけ言って、どこにいるかもわからないナキを探すために走り出した。
ふと見上げた空は、無数のハネに埋め尽くされて真っ白になっていた。