王子様の甘い誘惑【完】

「お前の気持ちはよく分かった」


蓮はかすれた声でそう呟くと、あたしの顎から手を離した。


蓮の熱が体から消え去った途端、急に不安になる。


「蓮……あのさ……――!!」


「じゃあな」


蓮は呼びとめるあたしを無視して、そのまま出ていった。


玄関に一人で残されたあたしは、壁に背中を預けて大きな溜息をつく。



実家にいた時は、一人部屋が欲しいって思ってたのに。


自分の部屋でゴロゴロしながらテレビを見たり、音楽を聞いたり、漫画を読んだり。


今はそんな夢のような暮らしができるのに。


うちにある小さくて映りの悪いテレビとは違って、この家のテレビなら映画館にいるような気分が味わえるはず。


ソファだって、うちにあった布団より寝心地が良さそう。


それなのに、どうしてこんなに暗い気持ちになるんだろう。

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