透明な翼
僕はというと、重い足取りでホテルへと向かっていた。

ゆりはもうとっくに着いてるだろうな。

ったく、バレて処分くらうのは僕だけだからっていい気なもんだよな。

ふと空を見上げた。

濁った都会の空。

街はこの時間になっても眠ることを知らずチカチカと明るい。

そのせいで空はうっすらと明るく、星なんて滅多に見えない。

まるで僕の心のようだと思った。

濁って、淀んで……一見明るいように見えてもそれは表だけで。

本当はどんな闇よりも暗くどろどろしている。

……さくらがいなくなって、僕はとうとう一人っきりになってしまった。

もうこの空が晴れることは……無い。




「んあ……ァ、やッ」

僕の下で女が鳴いている。

身体を汗で湿らせ、瞳にはうっすらと涙を浮かべている。

僕が動くたびに彼女はシーツを強く握った。

「幾、斗ぉ……イっちゃう……」

女は僕の背中に腕をまわして深く口付けしてきた。

僕もそれに応えて舌で彼女の口内を犯した。

そのとき、彼女がキュッと絞まるのを感じた。

「幾斗、幾斗ぉ!」

「ッ……」

そんな甘い圧迫のなか、僕等は同時にぶちまけた。




「……じゃあ、僕はそろそろ出るよ」

そう言って服を着てベッドを降りた。

「ぅん。またよろしくね」

裸の彼女が僕にキスをしてくる。

ホテルを出る際も念のため別々にしていたから、僕は一人で部屋を後にした。

そしてアパートに着くなり、ベッドにダイブして死んだように眠った。







< 10 / 37 >

この作品をシェア

pagetop