透明な翼
僕はカウンターの受付に戻った。

待つこと数分、すぐに客がきた。

指名を受けその子を呼びに控え室へ向かう。

「あきなちゃんご指名入ったよ」

ちぇーめんどくさぁとぶつぶつ言いながら立ち上がった彼女を連れてカウンターに戻る。

「お待たせしましたぁ~」

さっきとは打って変わった態度で客に挨拶をする彼女。

さすが慣れたもんだ。

「ごゆっくりどうぞ」

僕は客に頭を下げた。

二人は個室へと入って行った。

「なぁ幾斗、新入りの子見たか?」

頭を上げた僕に貴史がニヤニヤしながら話しかけてくる。

「いや?」

「めちゃくちゃ可愛かったぞ! お前も見てこいって」

ここは俺が代わってやるからと背中を押されて、僕はしぶしぶ奥の部屋へと向かった。

ドアが少し開いてる。

貴史が開けたんだろう。

けど僕は特に興味がなかったので傍の壁に寄りかかって話し声だけを聞いていた。

「ここで働きたい理由はなんだ?」

「それは……お金が必要だったので……」

……この声、どっかで聞いたことある気がする。

どこだっけ?

どうしても気になったので、部屋の中を少し覗いてみた。

……店長で見えないな……

僕はさらに身を乗り出してようやく目的の女の子が見えた。

……―――!!!

「お前、翠!?」

僕は思わず立ち上がって叫んでいた。

そこで面接を受けていたのは病院で会った女の子、平岡 翠だった。

翠のことなんてすっかり忘れていたのに、名前は驚くほどすんなり口に出た。

翠も覚えていたらしく、座っていたパイプ椅子を倒して立ち上がった。

「あなた……幾斗君!?」

その目は驚きに見開かれている。
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