透明な翼
何の躊躇もせずに部屋の扉を開けた。

そこにいたのは……

「幾斗……くん……!」

泣いている翠とその身体に跨る男の姿だった。

この状況だと、この客は翠に本番するつもりだったのだろう。

よく見るとそいつはゴムを着けずに入れようとしていた。

明らかなルール違反。犯罪だ。

「てめえ……翠に何してんだよ……」

「だ、だってこの子なら本番ヤらせてくれるって聞いて……」

男は半泣きになりながら必死に抗議する。

くそ! あの噂か。

まさか客にまで広まってたなんてな。

まぁそんなことはどうでもいい。

「んなこと訊いてんじゃねーよ。何してんだって言ってんだ」

「ヒィィ!」

「今すぐ消えろ。そして二度と翠の前にツラ出すな!」

僕はその男を強く睨んだ。

「そういうこと。次やったら殺すよ?」

遅れてきた貴史が笑顔で言った。

そして男は泣きながら走って行った――。

「幾斗、俺らは先に戻ってるぞ」

店長が貴史やギャラリーの女たちを連れて一階に戻って行った。

ありがとうございます……。

気を利かせてくれた店長に小さく呟いた。

さて―――。




「翠、大丈夫か?」

僕は近くに落ちていた翠の上着をその肩にかけた。

翠はまだ震えている。

よほど怖かったのだろう。

「もう大丈夫だ」

そっと頭を撫でてやった。

すると、

「……ありがとう」

僕の服を掴んで、消え入るような声で呟いた。
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