透明な翼
第一章

別れと出会い

『後悔は、したときにはもう手遅れになっている』

昔誰かが言った言葉が頭の中でぐるぐると回る。

あれから二年後、僕は東京から三時間掛かる病院へと車を走らせていた。

あの日、離婚して二つ隣りの町に引っ越した僕と母。

けれど去年の暮れに母が他界した。

僕は大学を中退して、一人で東京に出て来た。

特にやりたい事も無かった僕は、給金のいい風俗店のスタッフとして働いている。

そんな僕のもとに、今朝一本の電話が掛かってきた。

電話の相手は母の兄の伯父だった。

以前何度か話したことがある程度だったから、何の用だろうと疑問に思った。

どうせ母絡みのことだろう……

そう考えていたのだが、伯父から聞かされた内容は耳を疑うものだった。

『さくらちゃんが……さくらちゃんが病院に―――…』

さくらとは僕の妹のこと。

妹が倒れて病院に運ばれたらしい。

伯父さんはパニックを起こしていて話しが出来ない。

相当やばい状態ってことか……

「落ち着いてください! どこの病院です!?」

『君とさくらちゃんが住んでいた家の近くの、総合病院だ……』

まじかよ……東京からだととかなり距離あるぞ……

「分かりました。 すぐに俺も向かいますから」

『頼む、幾斗くん……早く来てくれっ』

僕は車のキーを掴んで玄関を飛び出した。

アパートの階段で危うく転げ落ちそうになりながらも、どうにか車に乗り込んで発進した。

さくら……間に合ってくれよ……

そう祈りながら。




「あぁ……幾斗君か」

病院に着いてみると、病室の前の椅子に腰掛けてうなだれている伯父を見つけた。

息を切らして駆け寄ると伯父の顔がよく見える。

母の葬儀で見た伯父の顔より一気に十も老いたような顔だった。

その様子を見ておおよその察しは付いた。

「さくらは……逝ったんですね」

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