透明な翼
「「いただきます」」

シチューをスプーンですくって口に運ぶ。

味は以外にも美味しかった。

気付くと一皿ぺろっと平らげていた。

それを見て翠は満足そうに笑っている。

「片付けは俺がやっておくから、翠は風呂入ってきな」

「えっ、わたしがやるから幾斗君、先に入ってきていいよ!」

「今日はお前疲れてるだろ? いいからさっさと入れ」

ほんの数時間前まで知らない男に触られていた身体を、早くキレイにしてきてくれ。

早く夜の世界から抜け出してくれ。

お前に付いた穢れたモノに染まってしまう前に、全部洗い流して……。

そんな僕の思いを知ってか知らずか、翠は頷いた。

「分かった。じゃあ先に入るね」

「タオルは後で置いておくから」

「ありがと!」

着替えを持ってパタパタと走って行く。

さてと、片付けるか。


数十分後、バスルームのドアがガチャッと開く音がした。

ソファーでくつろいでいた僕は身体を起こして立ち上がる。

今日はもう遅いし、風呂入ってさっさと寝るか。

リモコンでテレビを消した。

「……あの、お風呂空いたよ」

「っ……あぁ」

タオルで髪を乾かしながら翠が歩いてきた。

パジャマに身を包んだ翠はいつもより幼く見えた。

ほんのりと頬を染めて見上げてくる。

ヤベッ……

「部屋あそこだから、早く寝ろよ」

「うん、おやすみ」

ニッコリと笑って部屋に入っていく。

その後ろ姿を見つめながら思った。


こんなんで僕はやっていけるのか……?




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