透明な翼
そう言った僕の声は感情の無い無機質な声だった。

「すまない、幾斗君……」

どうしてこの人が謝るんだと思ったが、声には出さなかった。

「君とさくらちゃんは二年前から一度も会っていないそうだね」

「はい」

僕等はあれから会うどころか、一切連絡もとっていなかった。

さくらは母の葬儀にもこなかった。

後で聞いた話によると、父に止めたれたらしい。

父はさくらが僕や母に関わるのを嫌っていた。

……腐ってやがる。

どこの世界に実の母親の葬式に娘を行かせない父親がいるんだよ。

あぁ、ここに一人いたか。

「妹との二年ぶりの再会がこんな形になってしまうなんて……」

伯父が涙しながら言った。

僕は静かに病室に入り、横たわるさくらの傍に立った。

そっと手を握ると、驚くほどに冷たくなっていた。

二年ぶりに見た妹の顔は見違える程に大人になっていて、どこから見ても立派な高校生だ。

これからというときに命を落とした……出来ることなら、僕の命をさくらに分けてやりたかったよ。

生きる希望も、意味も見出せないでいる僕の命を。

輝かしい君の未来の為なら、喜んで捧げるのに。

僕はさくらの頬に優しく触れた。

こんなことなら、僕もあの家に残れば良かった……

さくらとの時間をもっと大事にすれば良かった……

今更後悔なんて、我ながら女々しいな。

「さくら……よくがんばったな」

そう言って頭を撫でた。

何度も、何度も。

「兄ちゃん……守ってやれなくてごめんな」

さくらの顔が、涙で霞んで見えない。

「ゆっくり休めよ」

その言葉がスイッチだったように、止めどなく涙が流れてきて何も言えなくなった。

さくらの右手首をさすってやった。

リストカットの痕の残るその場所を。
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