透明な翼
明日か……

翠の、生まれた日……。

「明日の為に今日は早めに上がっていいからな」

「はい。そうさせてもらいます」

この日僕は上がりまでずっと上の空だった。

誰かの誕生日を祝ったのは幼い頃のさくらの誕生日以来だったから。

何をすればいいのか分からなかった。

でも絶対に祝ってやる。

翠がいままで生まれてきたことを祝福されなかったと言うのなら、これからは僕が祝福しよう。

心からの“おめでとう”を伝えよう。

……まさかこの僕がこんな事を想う日がくるなんてな。

明るい翠の影響なのか?

なんでもいい。このときはそう思った。

なぜだか胸が温かかった。




「ただいまー」

僕が家に帰ると奥からパタパタと足音がした。

「幾斗くん? 今日は早かったんだね」

只今の時刻、PM11:48

普段に比べたら驚くほど早い。

なんでも、店長が明日の為に“今日”のうちに帰っておけって……。

初めから0時前には上がらせるつもりだったらしい。

「今日は客が少なくてな」

下手な嘘だな。まぁいいか。

翠は少しも疑ってないみたいだし。

「あ、お風呂沸かし直すからまってて」

「おーサンキュ」

さてと……どうすっか……。

僕は冷蔵庫から缶ビールを2本取り出してリビングのソファに座った。

翠はどっか行きたい場所とか欲しい物無いのか?

共同生活を始めてから翠はそういったことは一切言わない。

気を使ってるんだろうけど、いい年した女がこれじゃつまんねーだろ。

僕だってそこそこ金は貯めてるんだから、別にわがまま言ったっていいのに。

……ちょっと待て、そもそもアイツは明日予定空いてんのか?
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