透明な翼
そのことを、僕にだけは教えてくれた。

『お兄ちゃんがいるから、生きていられるんだよ』

『もし家でも一人だったら、とっくの昔に自殺してる』

そう言ってくれた。

「幾斗君……辛いだろうがそろそろ出たほうがいい。もうじきお父さんが来る」

今あいつに会ったらきっと殴り殺してしまいそうだ。

伯父もそれを分かって言っている。

僕は伯父と一緒に病院を出た。

隣り町にある伯父の家に行くことになり、タクシーで来たと言う伯父を乗せて車を走らせた。




翌日、昨日あのまま伯父の家に泊まった僕は病院へと向かった。

行ってもさくらにはもう会えないが、居ても立ってもいられなかった。

することもなくロビーで座っていると、僕の隣りの椅子に女の子が腰を下ろした。

声を殺してすすり泣く音が聞こえる。

この子も誰か亡くしたのかもしれないな……。

見たところこの子は僕より少し若いくらいで、おそらくさくらと同じくらいの年齢だろう。

ふと、彼女の姿がさくらと重なって見えた。

だからだろうか、僕は無意識にその子に話しかけていた。

「君はどうして泣いてるの?」

案の定、彼女は驚いていた。

けれど素直に話してくれた。

きっとその辛さを誰かに聞いてほしかったのだろう。

「さっき……お母さんが死んじゃったの……」

聞くと、父親は幼い頃に亡くなっていて母親と二人で暮らしていたらしい。

「そっか……寂しいね」

「うん……」

それからその子は黙ってしまった。

しばらくして、今度はその子が口を開いた。

「あの、あなたはどうしてここに……?」

いつまでも動く気配を見せない僕を不審に思ったのだろうか。

それとも自分だけ話したのはズルイとでも思ったのだろうか。

僕は適当なことでも言っておこうと思ったけど、その子がどうしてもさくらと重なって、気付くと全て話していた。
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