透明な翼
「――てわけだ」

話し終わって彼女を見るとその顔は少し曇っていた。

「……そう」

僕とさくらの生活が一般的に見てかなりショックだった……てとこか。

まぁこんな生活してるガキがそこらじゅうにいたら逆に問題だ。

なんでこんな話ししたんだろう。

この子はただでさえ母親の死に傷ついて、弱っているのに。

気ぃ遣わせるだけだと分かってたのに。

僕は気付かれないように溜め息を吐いた。

たばこ吸うか……。

そう思い立ってジーンズのポケットに手を突っ込んだ。

「あなたは……ちゃんと泣いた?」

「はぃ?」

今まさにたばこを咥えようとしていた僕の手が止まる。

泣くってなんの話しだ?

あぁ……さくらが死んだときか?

「さくらの時は泣いたよ」

少し恥ずかしかったけど、正直に言った。

すると、

「その時だけ? ご両親が別れたときは?」

「……いや、特には……」

「じゃあ家でヒドイ目に遭ったときは?」

「……泣いてないよ」

何なんだこの子は!

泣かないのがそんなにいけないのかよ!

「あぁ~もう! さくらのとき以外は一切泣いてないよ!!」

僕は思わず声を張り上げて言った。

やべ……やっちまった。

「ご、ごめんなさい……でも」

でも?

僕はおとなしく続きを待った。

「泣きたいときは泣かなきゃ……じゃないとあなたもさくらちゃんみたいに!」

……死ぬってか。

僕はそんなにヤワじゃないさ。

人の気も知らないで口減らずな子だ。
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