透明な翼
さくらが死んで一週間が過ぎた。
葬儀を終えて僕は東京に戻ってきていた。
帰ってからは普段通りの生活を送る毎日。
まるでさくらなど最初から居なかったと思えるくらい、この生活は何も変わっていなかった。
それが少し悲しい。
さくらのことを忘れてしまいそうで怖かった。
その思いを紛らわすようにカウンターに寄りかかってたばこを吸った。
吐き出す煙に自然と溜め息が混じった。
……面倒くせぇ。 何もかも。
時計の針が午前4時を指した頃。
「お先失礼しまーす」
僕と貴史は店長に挨拶をして店を出た。
このくらいの時間に終わるのは日常茶飯事だ。
夜の仕事をやってる奴はほとんどが昼夜逆転しているもんだ。
僕だって昼間は寝てるし。
「お前はこの後ゆりちゃんとのお楽しみだっけか?」
貴史が茶化すように笑って言う。
「あぁ……忘れてたわ」
そうだった……ホント面倒くせぇ。
その思いを露にして髪をわしわしと掻き回した。
「嫌なら断ればいいじゃん」
横目で僕を見ながら不思議そうに言った。
まぁそうなんだけど……
「別に嫌ってわけでもねーしさ」
断んのも面倒くせぇし。
どうせ断ってもあいつ等しつこいからな。
だったらさっさと終わらせたほうがマシ。
「はぁー、モテるお前が羨ましいねぇ」
やれやれといった様子で言う。
だったら代わってくれよ。
「じゃあな! 楽しんでこいよ!」
貴史は手を振りながら自分の家へと帰っていった。