火星より愛を込めて
 突然、窓ガラスを破り、黒い卵型をしたものがマックの目の前に飛び込んできた。

 余りにも突然過ぎたが、マックは本能的に砕けた窓から飛び出していた。

 鼓膜を破るような爆発音と共に、レストランのあった建物が崩壊した。

 飛び込んできたのは、対戦車用手榴弾だった。しかもポリス制式火器であるEIG社のB・180だった。普通のビルなど難無く破壊する。

 マックはすべて反射的に行動していた。

 彼は爆風と衝撃波で、1回転しながら通りの反対側まで吹っ飛んだ。

 そのおかげで狙撃は免れた。

 着地と同時に、KV・320を抜き、身構える。S・PACは左手に持っていた。

〈ふっ、決まった〉

 1瞬だけ自己陶酔したが、急発進する黒いエアカーを見逃しはしなかった。

〈くそっ!あの車か!〉

 直感的にそう思い、手近に停車している赤いエアカーへ駆け寄った。

 エアカーには、チンピラ風の男が今の爆発で束の間の痴呆状態となって乗っていた。

 ほのかな電子臭を放つKV・320の銃口を開いていた窓から中の男に突き付けた。

「おい、ちょっと降りろ、車は後で返してやる」

 男は、マックの声に瞬時にして気が付き、慌てて従った。

 マックは、礼を言って男と入れ代わりに乗り込むと、後ろも見ずにエアカーをスタートさせた。
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