ふた恋~雨が上がれば~
「昨日のこと、覚えてる?」


男の人に聞かれて、プルプルと首を横に振る。


「だろうね。昨日駅で君を拾ったときは、雨に濡れて意識がなかったし」


そう言って男の人は立ち上がり窓のところまで歩き、窓を少しだけ開けた。


「煙草、いい?」


胸元のポケットから煙草を取り出し、私に見せる男の人。


コクコク頷くと、男の人は同じポケットからライターを取り出し煙草に火をつけた。


フーと吐き出された煙が、窓の外に出ていく。


30歳代くらいだろうか?


スラっと背が高い細身の体に、整った顔立ち、スっとした目で遠くを見つめている男の人は、どこか影がある感じがした。


「昨日、駅で雨に濡れてたところまでは覚えてる?」


「……はい」


男の人はフーっと煙草の煙を吐き出し、窓の外を見つめながら私に聞いてくる。


「そんな君を見つけてね、そのままここに置いておいたら危ないって思ってタクシーに乗せてここまで連れてきた」


そう言った男の人は、「まあ、俺も全く知らない人だし危ないか」と呟いて自嘲気味に笑い、窓の隙間から煙草を持ってる手を出し、ベランダにあるであろう灰皿で煙草の火を消した。
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