ふた恋~雨が上がれば~
ジッと名刺を見つめていたからか、矢野さんが少しだけ笑顔を見せて私に聞いてくる。


「あっ、いえ。彼……じゃなくて、知り合いがファッション雑誌のカメラマンをしてるので」


「ふーん。そうなんだ」


いつもの癖で、祐也のことを彼氏と言ってしまいそうになって、慌てて言い方を変える。


振られたのに、祐也のことを彼氏と言えないことに寂しさを感じてしまう。


「ハハッ」


あんなに酷いことをされたのに、まだ心のどこかで祐也のことを思っている自分がいて、なんだか笑えてきてしまった。


「ふぇ……」


でも、すぐに涙が溢れてくる。


「何か、あったんだね。まあ、何かないとあんなところに座り込んでないか」


そう言ってポンポンと私の頭をなでると、矢野さんは静かに部屋を出て行った。


「もう、ヤダな」


ベッドの上に落ちたままだった濡れたタオルで、目を抑える。


まだほんの少しだけ冷たいタオルが、涙で熱くなった目を冷やしてくれた。
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