ふた恋~雨が上がれば~
「はい」


この部屋に時計がないからどれくらいたったか分からないけど、しばらくして矢野さんが昨日私が着ていたワンピースとタイツを持って部屋に戻って来た。


「あっ……」


反射的にワンピースを受け取ったけど、そのとき自分が誰かのスエットを着せられていたことを思い出した。


「あの、これ」


スエットの首元を軽く引っ張って矢野さんを見ると、「俺の」と言われてしまった。


「着替えって」


「それも俺。濡れたままにしておけなかったから」


「ですよね……」


恥ずかしすぎて俯いていると、「着替えるだろ?」と言って矢野さんはまた部屋に出て行った。


「もう、最悪だよ」


さすがに下着までは外されてなかったけど、知らない人に裸を見られるなんて……。


ありえない状況に落ち込みながら、スエットを脱いでワンピースに着替える。


てか、知らない人に拾われて、普通に話をしてるこの状況。


本当なら矢野さんのことを疑いの目で見なきゃいけないのに、彼は大丈夫な気がするって思ってしまうのはなぜだろう?
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