ふた恋~雨が上がれば~
そのキッチンから、コーヒーのいい匂いが漂ってくる。


慣れた手つきでコーヒーを淹れている矢野さんを見ていると、私の視線に気づいたのかフッと顔を上げこっちを見て、少しだけ微笑んだ。


その笑顔に、ちょっとだけドキッとしてしまう。


「ん?」


なんで今日初めて会った人にドキッとしてるんだろう?


そんなことを考えていると、目の前に白いカップが差し出された。


「はい。どうぞ」


「あっ、ありがとうございます」


カップを受け取ると、私が座っているソファと別のソファに座った。


お互いのソファが90度でくっ付くように置かれているため、体の向きを変えないと視線は交わらない。


だからほんの少しだけ、体を矢野さんの方に向けた。


「おいしい」


淹れてもらったコーヒーに口をつけると、ほんのり甘い私好みの味だった。


「そっか。よかった。砂糖1つとミルク1つだけど」


そう言って矢野さんは、私と色違いの茶色のカップでコーヒーを飲んだ。
< 22 / 45 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop