ふた恋~雨が上がれば~
私の勢いにビックリしながらも、矢野さんはここが都内の高級住宅街であることを教えてくれた。


「どうしよ……」


ここからなら、地下鉄で大学にもおばあちゃんの家にも、祐也の家にも行けるけど、お金も持ってないし携帯もない、いつも使ってるスイカもない。


でもだからといって、ゆっくりコーヒー飲んでる場合じゃないから、とにかくここを出よう。


「あの、帰ります。ご迷惑お掛けしました」


頭を下げて、カップをキッチンに持っていこうと体の向きを変える。


その瞬間、カップがスっと私の手の中から消えた。


「あっ」


「いいよ、片付けるから」


私が使っていたカップと自分の飲んだカップを持った矢野さんはソファから立ち上がり、キッチンに持っていく。


そしてすぐに、私のところに戻ってきた。


「ここから帰れる?何も持ってないよね?」


「持ってないけど……。でも、なんとかなるから大丈夫です」


「その根拠のない自信。どこから出てくるの?」


矢野さんがフッと笑う。
< 24 / 45 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop