ふた恋~雨が上がれば~
「あっ、お願いします」


そう言うと、車は静かに走り出した。


ふと後ろを振り向く。


随分小さくなった矢野さんが、マンションに戻って行くのが見えた。


「なんか、不思議な出会いだったな」


なんだか今まであったことが、小説の中の出来事のような気がしてしまう。


まさか自分が、初めて会った人とあんなにゆっくりとした時間を過ごしてしまうなんて……。


「警戒心なさ過ぎだよね」


でも、きっと矢野さん以外の男の人だったら、逃げ出してたと思う。


ポケットから名刺を取り出して、それを見つめる。


「カメラマン、か……」


もしかしたら、これから先どこかで会う機会があったりするんだろうか?


雨の中の不思議な出来事。


もう一度彼に会ってみたい気がする。


そんなことを思いながら、窓から流れる景色を眺めた。
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