ふた恋~雨が上がれば~
「矢野ね……」


フォークを置いた美香が、鞄をあさる。


「この写真集、矢野って人が出してるけど」


そう言って美香が私に、一冊の本を渡してくれる。


それは、野生の草木を収めた自然写真集だった。


「綺麗」


1ページ1ページに、心が奪われる。


「この写真集を撮ってるカメラマン、私好きなんだ。どの角度から撮れば、自然が一番よく見えるのか分かってるっていうか」


「うん。分かる」


美香の言葉に頷きながら、最後の奥付のページに目を通す。


「あっ!」


そこに載っていたカメラマンの名前は、私がもらった名刺と同姓同名だった。


「美香、見て!」


奥付のページを開いて、美香に写真集を返す。


「うわっ。同姓同名じゃん」
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