ふた恋~雨が上がれば~
嫌な思い出を振り払うように頭を振り、玄関を開けて明るい声で部屋の中に声をかける。


「裕也~いる?あれ?」


靴箱に片手をつき、履いてたパンプスを脱ごうと踵の部分に手を入れて下を向いた瞬間、私の物ではない、女物ブランドのとても綺麗なパンプスが目に入った。


「誰……の?」


その女物のパンプスの隣には、裕也の靴も置いてある。


ざっと玄関を見回すも、見慣れないパンプスは一足だけだし、部屋の中から話し声やテレビの音なんかも聞こえない。


ましてや、大勢で何かをしている雰囲気なんかこれっぽっちもない。


それよりも、人がいるはずなのに、部屋の中はすごくシーンと静まり返っていた。


「裕也?」


声をかけながら、ひとつひとつ部屋のドアを開けていく。


「いない?」


リビング、キッチン、裕也の仕事部屋、どこにも裕也の姿はなかった。


「あとは、ここだけ……」


最後にたどり着いた場所は、普段私と裕也が使っている寝室。


寝室のドアノブに手をかける。
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