暖簾 のれん

夫のカミングアウト

いきなり私は友人の有里の頬を平手打ちした。

有里の頬はみるみる赤くなったがこれ以上ない強い視線で私を見つめ返した。
その目は「冗談ではないんだ。」という事を再度私に訴えていた。
　
私は我にかえって、有里に「ごめん！」と言った。
有里は動かない。

「私の主人が同性愛者だなんて言うから・・・。」


有里はため息をついて言った。

「知らせない方が良かったのかもしれなかったね。でも、スポーツクラブ中の噂になっててさ。」

「何を証拠にそんな事を言うの？」

有里はバッグの中のタバコを探しながら言った。


「私は見たのよ。そのクラブの会員の男と美朝子（みさこ）のダンナが車の中でキス

しているのをね。」


ライターの火が細いメンソールタバコの先を赤く焦がした。
有里の吐く煙が引き攣った私の顔を包んでいく。