暖簾 のれん
何時間待っただろうか?車の後ろからクラクションが聞こえた。

振り返ってみると有里だった。

「何?ここで待ってたの?携帯に電話くれりゃよかったのに。」

車から降りるとそう言う有里の顔がぐちゃぐちゃに歪み始めた。
涙ばかり出てきて言葉が出て来ない。

すぐに状況を判断した有里は優しく言った。

「とにかく上がって!今日は親がいないから、気にしなくていいから。」


有里は旅行に出かけた両親を飛行場まで送りに行っていたらしい。


少しホッとした。


有里の両親に今朝この家を出て、また夜帰ってきて・・・。

何事なんだ?と思われるのが恥ずかしかったからだ。



「彼が認めた。私をもう愛せないって。」
やっと出た言葉がこの報告だった。


「そっか。認めたか・・・。」有里はタバコに火を付けた。

「1本ちょうだい。」

「あれ?美朝子タバコは嫌いだったんじゃ・・・?」

「うん。でも今は吸いたい気分、やりきれないもん。」有里に火をつけてもらった。

夫はタバコのにおいが大嫌いだった。
この煙をハエにかける殺虫剤のように夫の顔に吐きかけてやりたかった。



家の外を救急車がサイレンを鳴らして通り過ぎて行った。

思い余って自殺未遂でも起こし、あの救急車に乗っているのが自分じゃなくて良かったなんて考えたりしていた。

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