暖簾 のれん
「あいつを追い出せばいい話でしょ?」
部屋の中から別の女性の大きな声がした。
ドアの建てつけが悪いのか、ガンガンと押して開いたドアの中にはペイレイよりも年上の女性が立っていて、パジャマで眠そうな顔で出てきた。
「あいつ、3ヶ月も家賃支払ってないよ。しかもトイレはいつも流してないし、先週なんか水道出しっぱなしだったわよ。洗濯物も洗濯機に入れっぱなしで男は連れ込むわ、食べたら食器も汚れたまま放置。やってられないわよ!」
フンっと鼻息を鳴らすと頭をボリボリと掻きながら私に手を差し出した。
握手をすると、「私はチェンレイ。ペイレイの姉よ。」
「私はミサコです。日本から来ました。」
「ヨロシクオネガイシマス!ミサコ!」
チェンレイの口から日本語が飛び出たのには驚いた。
「え??日本語?」
「そう、ワタシ、日本人ラウンジで働いているGROデス!ヨロシクゥ!」
GROってなんだ??と思ったが、Guest relation officer の略で、つまりは日本語で言うナイトクラブのホステスさんだ。
日本人びいきのチェンレイは「まぁ座って、座って!」と私のスーツケースを部屋の隅に置き、ソファーへと引っ張って行った。
ペイレイはヤレヤレ・・・という顔で笑ってた。
「紅茶とコーヒーどっちがいい??」
「では、紅茶を。」
何が何だか分からなかったが、このアパートの持ち主、チェンレイに好意を持たれたのはよくわかった。
紅茶にパイナップルケーキをご馳走になりながら、私はここまで来た経緯を二人に話して聞かせた。
二人は深く同情してくれた。
「よし!ミサコ心配しない。この部屋の子は帰ってきたらすぐに追い出すから!それまで私の部屋で寝るといい。」
姉御肌のチェンレイ。
何だか頼もしい。
スコールはいつの間にか去っていた。
熱いシャワーを浴びた後私はご好意に甘えてチェンレイの部屋の隅で寝かせてもらった。
私はやっとここでの居場所を見つけた。