暖簾 のれん
次の日の夜。
私と有里はスポーツクラブの駐車場の外にいた。
月が雨雲で覆われている何だか気味の悪い空だった。

しばらくすると帰宅する車が数台出てきた。
その4台目に続く黒い車は間違いなく夫のものだった。

有里はサイドブレーキを下ろし、発進した。

私は後部座席から祈るように前の車を見ていた。車はにぎやかな街を離れて田舎の山道へ進んで行く。

赤信号で停止した時だ。私は自分の夫の肩に助手席の男が頭を甘えるように乗せたのを見逃さなかった。そして二つの頭部の黒い影が一瞬1つになった。

信号は青に変わった。

有里はいちゃいちゃして発進しない夫の車に乱暴なクラクションを鳴らした。
車は慌ててタイヤを鳴らし、猛スピードで走り過ぎて行った。


気がつくと私の体は震えていた。
暗い後部座席でナメクジが塩をかけられたように自分が小さくなっていく様な気がした。


有里は後をつけるのをやめ、パチンコ屋の駐車場に車を止めた。
何も言わず、振り返りもせずに後ろ手にティッシュの箱を渡してくれた。

泣いていると思ったのだろう。


でもあまりのショックで涙さえ出てこなかった。
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