暖簾 のれん
有里の両親は突然の来客に驚いたようだったが暖かく迎えてくれた。

「こんばんわ。すみません突然に・・・」
精一杯の作り笑顔で言ったがきっと不自然に思われただろう。

有里としばらく彼女の部屋でお茶をし、TVなど見ていたが一体何の話を今しているのか?どんな内容のTVだったのかなど、この真っ白になった頭の中に留めることなど出来ようも無い。

一体自分はどうしたらいいんだろう?そればかりがグルグルと頭を駆け巡り、離れない。

有里はそんな私を察知してか、全く先ほど起った事件には触れなかった。
(話したくなったら話してくれればいい)

彼女がそう言ってくれているのが長年の付き合いで分かる。

時計を見るともう23時。普通なら夫はとっくに帰宅してベッドの中のはずだ。

電源を切った携帯が気になって仕方がない。
でもスイッチを入れる事など絶対に出来なかった。

有里の母親が来て風呂に入らないかと聞いてきた。

「行ってきなよ。」有里も勧める。

熱目のお湯は私好みで、香りの良い入浴剤が入っていた。

行き場の無い今の私にこの上ない温かさだった。


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