暖簾 のれん
私は座敷を借りて寝る事にした。

この曇った空の下にいる誰よりも長い夜が来る気がした。

やがてカーテンの外が明るくなってきた頃、私は1つの答えを出した。

『離婚』がそうだった。

そして結婚よりもずっと面倒で大変な事が待ち構えている事に対して、心の準備が出来たといったところだった。

一睡もしていない事は有里にも有里の両親にも分かっていたようだ。
きっとすごい顔をしていたんだろう。

朝食をいただいている時も誰も何も聞かなかった。
「お代りしてね!」明るく言う有里の母親。
「この漬物は最高だぞ!食べてみなさい。」と有里の父親。

せっかくの朝食だったが、食が進むわけがない。
でも頑張って残さずに食べ終わった。


有里の両親は笑顔で送り出してくれた。

「お邪魔しました。ありがとうございました。」
「うんうん、またおいで!」

有里の車で自宅へ向かう。

途中携帯の電源を恐る恐る入れてみたが、着信履歴は1つも無かった。
自分の妻が無断で外泊しても電話一本も入れてくれないんだ。

小さなため息をつくと携帯をバッグに入れた。

自宅に着いた。

玄関のドアがいつもよりも大きく重いものに見えた。

「頑張って何かあったらいつでも電話してよ。」有里が言う。

「有里、本当にありがとう。昨日は頬をぶったりして本当にごめん。」

「気にしないで、私が美朝子の立場だったら同じ事してた。」

有里は笑って許してくれた。
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