暖簾 のれん
今何時だろう?どのくらい眠ったのだろう?

居間で物音がする。

夫が帰ってきていた。

私は慌てたが、もう逃げられない、避けられない。




恐る恐る居間に行くと、スポーツバッグにタオルを詰めながら
「昨日はどうしたの?」と夫が聞く。


「気分が悪くなって友達の家に泊めてもらったの。」


「あ・そう。」

彼はそのままスポーツクラブへ行く準備をしている。

「夕飯、何かな?」

「夕飯、作る元気ない。」

「じゃぁどうする?」
少し困った顔で私に聞く夫。

何事も無かったように平然と接する彼が憎らしくなってきた。


「私は食欲無いから食べない。」


「あ・そう。」





「貴方は彼氏とでも食べてきたら?」






スポーツバッグから手を離し、夫は凍りついた。
部屋の空気が瞬間冷凍されたように冷たく変わった。


夫は私を見つめた。


彼は大きなため息をついてスポーツバッグを床に投げ、ソファーに乱暴に座った。


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