化学室のノート【短編】
「4月に、また会おう。
そのとき名前を教えてやる」
私の頭をぽん、と撫でて
彼は笑う。
「うん。
私の名前は…もしかして知ってたりする?」
「いや、あえて知ろうとしなかったよ。
あんたの口から聞きたかったから」
「…じゃあ、私の名前も4月に」
「ああ」
そっと彼の手が
私の頭から離れてく。
「それじゃあまた、ノートで」
「うん。
ノートで」
明日からは3月だ。
あと一ヶ月。
私たちは
ノートできっと語り合う。
春になるのがもどかしくて、
それでいてほんの少し寂しい。