間愛のつめかた
「青文様、歯の具合はどうですか?」

留玖が、歯痛の覆面家老を心配そうに見つめた。

「一口だけでも召し上がっていただけたら、嬉しいのですけど」

「ああ、大丈夫です」

数日前から歯痛でうめいていたはずの男は、
覆面に隠れてまったくその症状の見えない口から、ケロリとした言葉をつむいだ。

「『これなら食べることができそう』ですので」

「そうですか、良かった」

「はい、私もいただくことにいたします」


って、こいつまさか──

いやいや、まさか。


こいつが今日の宴のことを知ったのは昨日。

歯痛になったのはもっと前だ。


浮かんできた、とある可能性を俺が振り払って、


「どうぞ、皆さま召し上がってください」

留玖がかわいい声で、嬉しそうに言った。


うむ、まあ、今はこの美味そうな料理を平らげるのが先だ。


誰からともなく椀を手にして、

「待て……!」

押し殺した声が俺の耳にだけ届いたのは、
今まさに椀に口をつけようとした瞬間だった。
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