間愛のつめかた
「宗助か?」

俺は素早く目だけ動かして周囲を見回して、

「そうだ。その料理、食べてはならない」

忍の男の声は、俺が座っている場所の真下から聞こえてきた。

床の下に潜んでいるのか?

「食べるなって……どういうことだ?
誰かが毒でも盛るのを見たのか!?」

過去の嫌な記憶がよみがえって、俺は緊張しながら床の下にささやいた。


通常、俺の口に入る食べ物は、毒味役の者が先に食べて安全を確かめるしきたりになっている。

しかし、今日は留玖が料理人を全員閉め出して一人で台所に立っていたため──


毒など盛られる心配はないということと、

留玖の手料理を、俺より先にほかの連中が食うことが許せなかったのとで、


目の前の料理は毒味役の口には入らないまま、俺たちの前に並んでいる。

それでも念のため、
毒を混入する者がいないように、宗助には料理の一部始終を見張らせていたのだが──


「いや。支度をしていた人間は昼過ぎからずっとおつるぎ様お一人で、他に料理に近づいた者はいない。

毒など盛ることのできた者はいないと断言できる」


「なんだよ。だったら問題ないじゃねーか」

俺はホッとして椀に口をつける。

冬馬や青文、鬼之介たちも手もとの料理を口に運び──


「待て! その料理自体に問題があるんだ……!」

忍の男は意味不明なことを口走った。


はァ!? 問題がある?

見た目も香りもカンペキじゃねェか。


俺は無視して、

食欲をそそる芳香を放つ椀の中の汁を口の中へと流しこんで──







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