間愛のつめかた
俺が言外に含ませた迫力に気づいたのか、

はたまた、満面の笑みを浮かべながらも俺の目がまったく笑っていないことに気づいたのか、

隼人が「……っのやろう」などと文句を言いながら座り直した。


「もう、エンったら……乱暴だなあ」

留玖が困ったように言って、


「おいしくできて良かった。皆さん、どんどん食べてくださいね」


無邪気にほほえみ全員が凍りついた。



「どうしたの? 遠慮しないでね」

「お、おう……」


俺は覚悟を決めて、もう一度椀に口をつける。


そうだ、先刻の味は何かの間違いということもある。

いや、間違いに違いない。

というか間違いであってほしかった。


椀の中身は相変わらず、

おいしそうな香り、
完璧な美しい見た目、
一口すすればしっかりと出汁が効いており、

飲みこめばのどを焼き胸を焼く甘さが──



うぷっ?

思わず胃の中身が逆流しそうになり、俺は必死で耐えた。



完璧な料理にただ一点、死ぬほど甘くするという加工をほどこすだけでこうも劇的な変化が起きようとは──

出汁の効いた肉や野菜と甘い味つけという組み合わせが、ここまで相反する作用を生み出すとは想像だにできなかった。



なんというか、背筋に寒気が走って全身に鳥肌が立つような……



いやいや、だが不味いわけではない!

断じて、

留玖の手料理が不味いわけがない!



俺は必死に椀の中身を胃の中に注ぎ続け──




< 77 / 79 >

この作品をシェア

pagetop