間愛のつめかた
もちろん私も、人前では「殿」と呼ぶようにしている。

でも──

二人きりで旅をしていたこの半年間ずっと、円士郎に言われて彼を「エン」と呼んでいたせいで、今もそのクセがなかなか抜けなかった。



「ずっと変わらず優しくしてくれて──

殿に不満なんて……ないんですけど……」


私は自分でも自分の気持ちがよくわからなくて、小さな声になった。

今日、亜鳥が私に会いに来てくれたのも、城の中で私が寂しくないようにと円士郎が頼んでくれたからだった。

こんな風に大切に思ってもらって、
円士郎に対して不満なんてあるわけがない。


でも、「夫婦だと思ってる」って……

「夫婦」って……



円士郎とは、

江戸でも
旅の道中でも

恋仲だった頃と比べて、何か変化があったわけではなくて──



「なるほど、ずっと変わらず優しく……か」

亜鳥は何かに納得したように、私の言葉を繰り返した。
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