ダークエンジェル
水嶋の持ってきた着替えのアンダーシャツなどを着て、
制服を着たリュウは、
水嶋の予備のラケットを手に、
カイルに別れの言葉を出しホテルを後にした。
「なあ、リュウ、さっきの話だけど…
お前、もう少しお袋さんたちと仲良くしたらどうだ。」
ホテルを出ると水嶋がまた家庭内のことを持ち出してきた。
「先輩、僕、その話は嫌いだ。
学校やクラブで何が楽しいかと言えば、
顔を見ないで済むから。
でも、僕は父さんのしたいことを反対する権利はない。だから… 」
と言ってリュウは悔しそうな、
泣きそうな顔をしている。
そんな子供っぽい姿を見てしまえば…
水嶋は慌てて言葉を出した。
「分かった。悪かったよ。
お前の嫌いな話など持ち出して。
まあ、どこの家にもトラブルぐらいある。
俺のところは、
店をしているから皆忙しいんだ。
俺が小6の時、
忙しくて疲れがたまったのか、
お袋が倒れ、今も車椅子。
兄貴が中学卒業と同時に親父の手伝いに入り、
姉貴も高卒後は家でお袋の世話や店を手伝っている。
俺は昨日のように、
たまに配達を手伝うが、後は好きにしろだ。
弟もいる、生意気な奴だがサッカーをして、
話題を提供している。
まあ、俺たちは頑張ればテレビ中継もある。
ああ、頑張って、お袋へのプレゼントさ。
お、これは内緒だぞ。
あくまでも曙高テニス部のためだ。」
「ふーん。じゃあ、僕も頑張るよ。
準決勝や決勝戦になれば絶対だね。」
「ああ、お前の所だって、皆喜ぶぞ。」
「うちはテニスなど関心がない。
先輩のところは家族が多くて羨ましい。
だけど僕も頑張る。
そう言う目標があったほうが、やる気になる。」
と、校門を歩きながらリュウは元気が出た、と言う様に
ラケットを振り回している。