ダークエンジェル

「そうなのか。
じゃあ、昨日は親父さんが留守だったから、

お前、本当に帰りたくなかったんだな。

あ、だけど今はもう帰っているぞ。
お前、早く帰れよ。

親父さん、きっとお前に会いたくて早く帰ってきたんじゃあないか。」


「うん。だけど先輩、ここって面白いね。

僕、この雰囲気好きだな。」



なにわぶし的な性格の強い水嶋は、
リュウの生い立ち、
と言うか話にすっかり同情しているが、

リュウはいきなり話を変えてきた。

そこにはそれまでの不憫な子、と言うイメージはすっかり消え、

家族が心配しているのに、

好き勝手な事に心が奪われている

現代っ子のようなリュウが顔を出している。


が、その時、水嶋の携帯がなり、

話し始めた水嶋の顔色が一瞬にして変わった。




「リュウ、あのな、落ち着けよ。」



落ち着かなくてはならないのは水嶋だ、

と言うほどに水嶋は動揺して、
言葉が上手く出なかった。



「先輩… 」



水嶋は時間がほしいように、
通りを走っているタクシーを止め、

新宿総合病院へ向っている。

そしてタクシーが動き始めて、
初めてまともな言葉を出した。



リュウが水嶋の家に居ると思った父親は、

今晩は皆で寿司を食べよう、と言いだし、

美由紀の運転する車で店の近くまで来たところ、

大型トラックに追突され、側壁に激突。


美由紀とかずらは即死、
信秀とのぞみは意識不明の重態、

と言う連絡だった。



「そんな… 父さんが… 」



そう言ったきり、リュウは声が出なかった。

水嶋の隣で… 
震えているのが伝わって来る水嶋だ。

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