ダークエンジェル
リュウという呼び名も、
中1の時、
優しくしてくれた先輩が呼ぶようになり、
すぐ皆もそう呼ぶようになった。
高2の今、
曙高校テニス部のリュウは、
高校テニス界の間ではかなり知られている。
「それで… 何があったの。
もう8時を回っているわよ。
おなか空いてないの。」
今は175センチには伸びているリュウ、
並べば、かおりより頭ひとつ高いが、
その雰囲気は…
クラブをしている時は中堅の2年生、
外部との対抗試合には3年生と共に活躍し、
その存在感を出しているが、
今のリュウは、
どう見ても、
叱られて家に帰れない子供のような雰囲気だ。
そんなリュウを見れば同級生のかおり、
黙ってなどいられなかった。
「何も無い。
もう帰ろうとしていた。じゃあな。」
そう言ってリュウはブランコから離れ、
かばんとラケットを持って歩き始めている。
「リュウ… 」
実は今日、
父の信秀は学会で北海道へ行っている。
二日間は留守なのだ。
父がいなければ家にいるのはあの他人だけ、
と思えば帰る気が起こらなかった。
我がままのようだが、
リュウはどうしてもあの妹たちが好きにはなれない。
義母は家政婦よりは増しだったが…
時々感じる疎外感…
父が何故再婚したか、
理解に苦しむだけだった。
確かに父は今の暮らしに満足している。
リュウと二人の時には出さなかった、
おおらかな笑い声で
家族の団欒に入っている。
妹たちの甘えたような声が父の笑い声に共鳴して…
リュウ以外では楽しい家庭像が出来上がっている。
リュウは、
その甘えを含んだ甲高い声がどうしても好きにはなれない。