ダークエンジェル

「だから、どうしてカイルがここにいるの。

父さんと知り合いだったの。
僕は何も聞いていないよ。

それに… どうしてこんな時間に入ってきたの。

それに、今、何をしていたの。

それらのチューブは父さんの命綱みたいなものだから触らないでよね。

父さんに何をしようとしていたの。」



声を出しながら、
リュウの頭はパニックに陥りそうだった。



「いや、私は… 
高倉さんの足をマッサージ… 」


「父さんは動けないのだよ。
ずっと眠ったきり… 」



そう言いながら、
相変わらず眠っている父を見て、
リュウは涙が浮かんできた。

家政婦や水嶋がいる時は平気な顔をしているが、

それでも一人になり、
意識の無い父を見つめれば… 

それだけで毎日涙が浮かんでいるリュウだ。

不安に押し潰されそうな毎日、

いつの間にか、涙と握手するのが当たり前のような日々だった。


今も… 不審者、カイルを睨んでいたはずだが、

父に目を遣っていて… 
いつの間にか涙が浮かんでいるリュウだ。



「泣かないで、リュウ。
大丈夫、高倉さんは必ず意識を取り戻す。

私は今、その時のために足をマッサージしていたんだよ。

二ヶ月もベッドでは足の筋肉が衰えてしまう。

せっかく目覚めても動けなくなっていては悲しいだろ。
そう思って… 」



そう言いながらカイルはリュウに近づき、

その細い体を抱きしめてきた。



「やめろ、触るな。
まだここにいるわけを聞いていない。」



その行為に驚いたリュウ、

慌てて手で払いのけ、あとづさりした。

父親との二人暮らし、
スキンシップとは縁が無かった。

子供の頃、たまに抱かれたり肩車の経験はあるが… 

所詮幼児期までだった。

そして今、一瞬の抱擁… 
驚いて叫んでしまった。

しかし不思議な事だが、
温かいものが残っている。


カイルは寂しげに苦笑している。
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