ダークエンジェル

その夜は眠れなかった。

何も反応しない父が悲しく、
心のどこかで、

またカイルが風のように現われてくれるのを、
待っていたのかも知れない。

そう、まともに話したのはあの夜、
ほんの数十分だけだったが、

カイルの言葉に嘘はないように感じた。

カイルは同じ母・ソフィアから生まれた兄、

カイルの父親がアメリカ人だったから、

日本人の父を持つリュウとは容貌が微妙に異なるが、

それでも、この世にたった1人の兄なのだ。

2人に兄弟の絆はある。

カイルは父の事故を知って、
ああして見に来てくれた。

ビジネスマンだから時間に追われ… 

あんな時間になってしまったが… 
心配してくれていたんだ。

また来る、と確かに言っていた。



そんなわけで、
大切な決勝戦と言うのに、
リュウは明け方になって眠ったからか、

家政婦の野村さんに起こされるまで眠っていた。

顔を洗って朝食を食べていると、
水嶋が顔を出した。



「やっぱりリュウも興奮して眠れなかったんだろう。
俺もだ。

こんな事は一生のうちにあるかないかだからな。

いや、俺としては秋の国体も狙っているが… 
だけど、何となく叶いそうな気になって来た。

リュウ、覚えているか。
今日の試合をきっぱり決めて… 

しっかり目立っておこうぜ。」


「うん。その頃には父さん、起きているかなあ。

僕も父さんに見せたい。」


「それはそうだ。
あ、そうだ。今から俺の店の裏側にある弁財天に行こう。

最近は芸事の神様のように思われているらしいが、
元々は武運を祈る神様だったらしい。

必勝祈願と親父さんの回復願いだ。」



水嶋はリュウが思っても見なかった言葉を出してきた。

そう、とても嬉しい言葉だった。

< 67 / 154 >

この作品をシェア

pagetop