ダークエンジェル
自分はこれほどにカイルの存在を頼りにしているが、
果たして父は…
リュウは一度も父の口からカイルの事を…
いや、そう言えばソフィアの事だって…
一度だけ、これが出生証明書、名前はソフィア、
と言って見せてもらっただけだ。
父はどんな気持ちで生きてきたのだろう。
カイルの事は知らなかったのかも知れない。
ソフィアの事だって…
再婚したぐらいだから忘れているのかも知れない。
だから、どんな人なのか… 何も分らなかった。
僕と父さんは、肝心な、大切な話はして来なかった。
そうじゃあない。
きっと、僕が成長していなかったのだ。
初めから父さんしかいなかったから、
それが当たり前の暮らし、と思っていた。
僕が周りを見なかったのだ。
だから父さんは話せなかった。
父さんは僕に、
わざわざ死んだ人を思い出させ、
寂しがらせたくは無かったのだ。
中学になったらあいつらが入って来て…
ますます話をする機会が少なくなった。
早く父さんが起きて…
いろいろな話を聞きたい。
その夜も…
そんなことが走馬灯のようにリュウの頭を過ぎり…
寝たふりはしていたが、
看護師さんが見回り、
警備員が廊下を3度巡回しているのも覚えている。
しかし、翌朝の気分は悪いものではなかった。
それどころか、
携帯電話にカイルの番号がある、
というだけで温かい気持ちになっていた。