いのり
『……わぁ』
ドアの向こうに広がる景色は
今までに見たことがないほど綺麗なもので。
言葉にならなかった。
このビルの向こうに海が見えて、
沈もうとしている夕日が海にきらきらと反射し、
赤やオレンジに輝いていた。
真っ白いはずの雲は形を無くし
夕焼けに溶けこんでいる。
「…綺麗だなぁ。何回見ても」
『うん…、すごい綺麗』
胸の奥が熱い。
この美しさを目の前に
あたしはただ立ち尽くすことしかできなくて。
この広大な空にまるで吸い込まれていくような感覚を、
生まれて初めて味わった。
『どうしよう、涙出る』
この道を選んだあたしに
こんな奇跡を
まのあたりにする時が来るなんて
涙が頬を伝うのがわかる。
もしかしたら
初めて流した涙かもしれない。
同時に溢れ出すのは、
ハルが「愛しい」
という気持ち。