あの娘
今は資料室に入って2人で外の体育の様子を見ている。

会話なんてない。


「…」

「…」

瀬戸さんはゆっくりと体を逆に向けて携帯を取り出すと何か文字を入力していた。

「どうしたの?」

「…彼氏にきちんとお別れしよーと思って。あーぁ。これでお別れか。」

悲しそうに笑うと、携帯の送信ボタンを押した。

「私ね。さっきの先輩の友達…と付き合ってたんだけど、最近私と話をしてくれなくなったし、メールもしてくれないし、女の先輩からずっと別れろっていわれてたんだ。」

えへへと力なく笑うとそっと膝小僧の間に頭を埋める。

「浮気されてたのも知ってた…でも好きだったんだもん…別れよって言われなかったから…別れなかった」

「瀬戸さん」

「ごめんね。昨日知り会ったばかりなのにこんな重い話しちゃって。」

顔はうずめたまま、彼女は言った。

「もう少ししたら元気になるから…もう少しだけ…」

俺は瀬戸さんの頭をゆっくりと撫でた。

「大好きだったんだろ?今は無理に元気出そうとしなくていいんじゃないかな?」

瀬戸さんはぽかんとした顔をしたがすぐににっこり笑った。

「ありがとう。枢くんと一緒でよかった」

俺の顔が茹で上がるかのように熱くなっていく。


「あ、いや…俺は何もしてないし」

「そんなことないよ。ありがとう。」

俺の心臓はもたないのじゃないかと思いながら、必死にそっぽを向く。

その時、終業のチャイムがなり、2人きりの時間が終わりを告げた。

まだ、一緒にいたかったな…

瀬戸さんが立ち上がり、両手で頬を叩くと、よーしっと気合の声を出すと、扉まで歩いて行き振り返る。

「枢くん!帰ろ!」

その笑顔に俺はまた、ドキンと心臓が跳ねるのだった。

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