あの娘
「枢っ!おは!」
バシンッと音が聞こえるほど俺の背中を強く叩くのは…サッカー部マネージャーの桜先輩。
いきなり背中を叩くものだから咳き込む。
「枢!今日あんた昼休み部室掃除ね!」
「は?」
「は?じゃないわよ!あんた昨日サボって帰ったでしょ?」
「…あ!昨日俺でしたか…すっかり忘れていました。すいませんでした」
「んまぁ、素直に認めたから今回は許してあげる。でも、あんた結構律儀なのに最近ぼーっとしてること多いよね。珍しい」
「そんなことないっす」
「なになになに?なんか恋煩いとか?」
思わず、ボッっと火がつくような音が聞こえてきそうだった。
「え?!まじ?!てか枢は可愛いなーもー!!」
そういって桜先輩が俺の頭をぐりぐりと撫でて行く。
「桜先輩やめてくださいよ!」
「可愛いーっ!!」
だんだん周りの人間の目が冷やかしの目に変わっていくのがわかる。
がしっと俺の腕を掴むと桜先輩は俺の腕をひっぱり自分のほうに引き寄せる
「枢にもとうとう現れたのね!で、一体誰?!」
キラキラした眼差しで見てくるために俺も赤面せざるおえない。
「…誰でもいいじゃないですか」
「気になるの!ね!お願い!」
このままでは、腕を離してくれそうにもない。
「桜先輩、ほんと勘弁してください」
「やーだっ!」
にこっと笑う桜先輩に周りの先輩方の視線が俺に突き刺さる。
この先輩は少しは自分の容姿を気にしろ。
「桜!枢が困ってんだろ!」
俺と桜先輩の間にぐっと大樹さんが入り込む。
「大樹さん!」
「邪魔しないでよ、大樹!」
むすっと怒る先輩は、大樹さんの肩をポカポカと叩く。
大樹さんははぁ。とため息をつくと俺に小さく、行け。と合図する。
その優しさに甘えて俺は昇降口までダッシュをする。
桜先輩の声が後ろから聞こえるけれど、そのままクラスまで逃げ切る。
教室につくと、結城が俺の後に続いて入ってくるとニヤリと笑って席についていった。
「なんだよ」
「朝から羨ましいと思って」
「うるせぇよ。あの先輩少しは周りの目を気にして欲しい。」
「いーじゃねーかよ。美人の先輩に腕掴まれてよぉ!俺もサッカー部に入ればよかったぜ…」
「邪な考えはよしたほうがいいぞ。いいこと起きねぇ。」