ウルトラマリンブルー
いや、そんなことない、絶対ないって喉から声が出そうなところを、なんとか必死で押さえ込んだ。
「いえ……、ご親切に、ありがとう」

ぎこちない言葉を返すのがやっとだった。

彼はその返事を柔和な眼差しで見つめると、何故かふっと口許を緩めた。
それからしばらく、お互い無言のまま、雑踏の海原を蛇行しながら泳いだ。

私は彼の引き締まった逆三角のワイシャツから離れ過ぎないよう、ひたすら歩いた。

その白い後ろ姿を見つめながら、この幸せなシチュエーションを少し恨み始めていた。

(もっとゆっくり歩いて……
路に迷ったっていいのに……)

やがて目印になっているデパートの入口を知らせる看板が、私の目にも写った。

一瞬激しく落ち込む感情……。

何?
この気持ち……。
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