汚レ唄
「はぁ~……」
流れる景色すらまともに見えない。
全てがかすんだ景色。
もういいや。
見えないなら見なければいい。
目を閉じて耳だけ澄ます。
静かだった。
少ないとは言え、人はいるはずなのに、とっても静か。
自分の心臓の音しか聞こえない。
ユラユラ揺られ、
ふんわり浮いていくような。
……そんな感じ。
今、ものすごく気持ちいい。
すごく心が楽だ。
このまま、ずっとこうしてたい。
だけど、車内に流れるアナウンスで、次が目的地なんだと気付かされる。
……次の駅は祐君のいつも使う駅。
ここは、祐君の最寄り駅。
無理矢理、瞼を開け、眉間にしわを寄せながら目に力を入れて、景色を眺めて外に飛び出す。
少し田舎のような雰囲気のある駅。
切符を握りしめて改札口へと歩く。
「はぁっはぁっはぁっ………」
ぼやけて見える改札。
切符を通すのも至難の業で、やたらと左手首がズキズキ痛む。