汚レ唄


足がもつれてその場でこけそうになったとき、目の前に誰かの服が飛び込んできた。


「陽菜ちゃん?」


その場に抱きかかえられて座る形になってやっとわかる。


あぁ……私、今誰かに助けられたんだって。





相手は……顔を見なくてもわかったよ。


こんなに温かくて、

こんなに優しくそっと抱きしめてくれるのは、

キミしかいない。






こんな私でも、大切な大切なものに触れるように優しく触れてくれるのはキミしかいない。



「……っはぁっはっ…………祐、くん」


迎えに来てくれたんだね。


「……ありがとう」





「よいしょっと。
陽菜ちゃん、立てる??」

先に立ち上がり、私を立ち上がらせてくれる。




大丈夫。

大丈夫。

まだ大丈夫。




キミに言いたい言葉があるんだ。


大丈夫と自分に言い聞かせた途端、視界がはっきりと見えてくる。


『病は気から』ってよく言うから。

それと同じ。



まだ大丈夫だと気をしっかり持つと、本当にまだ大丈夫になる。



不思議……。







「陽菜ちゃん、歩ける?」


心配そうに顔を覗き込む祐君。

本当に、優しいね、キミは。


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