汚レ唄
不思議とさっきの苛立ちはなくなっていた。
むしろ、今度は何を言うのかとワクワクしていた。
「メール送ってもいいかな?」
……大輔君の友達だし、まぁいいか。
“大輔君の友達だから”
自分ではそう思っていたつもりだった。
だけど、どこかで、この不器用なくらい真っ直ぐな人に興味が沸いていたのかもしれない。
「いいよ」
私はそれだけ答えて電車を降りた。
あとで大輔君に祐君のメールアドレスを聞こう。
それで、私から送ってみたら、彼はどんな反応をするのだろう?
想像すればするほど、なんだか楽しくなって、人がたくさんいるのにも関わらず、口の端が上がってしまう。
多分、祐君はすごく驚くだろう。
持ってた携帯を落としてしまうかもしれない。
「ふふふ……」
「何、1人で笑ってんの?」
後ろからかけられた声にドキリと心臓が音をたてる。
後ろを振り向く前に、その人は私の横に来て、歩幅を合わせて歩いてくれた。
「笑ってないよ。お兄ちゃん」
そう、今、隣にいる人は私の兄。