汚レ唄
「……あっ」
ぼんやりとする灯りの点いた家の前。
那智が寒いと言いたげに腕をさすりながら玄関に立っていた。
那智の吐く息が白く昇っていく。
「なんで、那智が?」
立って待っててくれてるの?
なんで、来る時間がわかったの?
「一応メールしといたから、それで出てきてくれたのかもしれないね」
「メール?」
ほらっと祐君は笑って携帯画面を私に見せた。
そこには、
『今、×××の前をすぎたとこ』
と打たれた祐君の送信メールがあった。
いつの間にこんなの打ってたんだろう。
隣にいたのに、まったく気付かなかった。
車が那智の家の前にゆっくり止まり、私はお父さんにお礼を言って、車から降りた。
当然、祐君も降りて話を少しするものだと思ってたけど、祐君は車から降りず、窓を開けて、
「じゃあ、陽菜ちゃんのことよろしく」
とだけ言って手を振って行ってしまった。
祐君にまだお礼いえてない。
だけど、もう祐君の乗る車は小さく小さくなっていった。