汚レ唄
── 無償 ──
小さくなっていく祐君を乗せた車。
自分の元から離れていくことに寂しさを感じたのはなんでだろう。
ずっとその場から動くことなく、車の走っている方向を眺めていると、那智のくしゃみが聞こえてきた。
そのくしゃみで那智の方をみると
「陽菜?中はいろっか」
と鼻を真っ赤にし、ズズッと鼻をすすって、悲しげに微笑んだ。
那智のこんな顔、はじめて見た。
いつでも、しっかり者で、いつだって私を支えてくれた。
どんなことがあっても自信たっぷりに笑う那智なのに。
今は、その笑顔が悲しんで見える。
“話はつけたから”
祐君の言葉を思い出した。
そうか。
那智は全部知ってしまったんだね。
私が汚れた想いを兄に持っていたことも、
私がつけた、この傷も。
だから、そんな顔をするんだね?
俯いたまま、なかなか家の中に入らない私を、那智は
「何してるの?早く入りなよ」
と、優しく背中に手を回し中に入るようにと押してくれた。
「……おじゃまします」
「陽菜ちゃん、いらっしゃ〜い♪」
那智のお父さんもお母さんも笑顔で迎えてくれた。