汚レ唄
「あの、お風呂、ありがとうございました」
それだけ言って那智の部屋に行くのがいつも。
だけど、今日は、那智のお母さんに引き止められた。
「陽菜ちゃん、ホットミルクしてあげよっか」
とニッコリ微笑んで立ち上がる。
「いや、そんな……いいですよ。悪いですし」
って言葉なんて聞かずに準備を始める那智のお母さん。
「いいのいいの。私も飲みたかったんだぁ」
那智のお母さんは基本的におっとりした人で、このテンポが私はいつも好きだった。
のんびり
おっとり
……いいなぁ。
「ホットミルクを飲むとねぇ、ホッとするのよ〜?
だから“ホッとミルク”って言うんだから」
どこから仕入れた情報なのか、怪しいウンチクを自慢げに披露する那智のお母さんはやっぱり、私が知る中で最高の大人だと思う。
コタツに誘導されて、ドラマのほうに目を向けると、そこには、テレビにうつる人全てが大号泣していた。
何があったんだろう。
見入りそうになった時、背後から声をかけられた。
「はい♪おまたせ〜」
黄色のマグカップを2つ、手に持って那智のお母さんが現れる。
そして、目の前に1つのマグカップを静かにコトっと優しく置いてくれた。
「ありがとうございます」