汚レ唄
「まだ、思い出さない?
雨の日の朝、キミはメガネを渡して俺に言ったんだ。“綺麗な景色がある”って事を」
静かに静かに暗闇が私たちを包み込む。
メガネという言葉を聞いて、俯いて電車に乗る男の子のことを思いだした。
下ばっかり見て前を見ようとしない男の子がいたことを。
もしかして、その子がキミなの?
「それから、俺は上をみて歩くようにした。
怖がることをやめた。
ずっと前の父みたいに。
そんな俺の姿をみてね、父が変わってくれたんだ」
膝の上に置いていた手が祐君の手に覆われる。
ドキドキと高鳴る胸の音。
沈めてくれるのはキミの落ち着いた声。
「あんなにお酒を飲んでた父が、“お前の笑顔見たら、もう一回頑張りたくなってきた”って言って、新しい仕事を見つけて頑張ってくたんだ。
それで、母も支えてくれるようになった。
陽菜ちゃんの言葉が俺を……、父を変えてくれた。
“人間堕ちるとこまで堕ちたら上がれない”なんてことはなかった。
“人間堕ちるとこまで堕ちたら、後は上がってくるしかなかった”んだ」
私の言葉が祐君のお父さんを変えた?
私の言葉が?